Return to site

AI研究者が問う ロボットは文章を読めない では子どもたちは「読めて」いるのか?

「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトでぶつかった「ある疑問」

· ことば,AI時代,子育て

こんにちは、Growba®モンテッソーリ・プレスクール代表・主任教師

さじ ゆきこ です。

今日は、AI(人工知能)研究の題材として「ロボットは東大に入れるか」(通称「東ロボくん」)プロジェクトの中で浮かび上がってきた、子どもたちの読解力についての記事にコメントしたいと思います。

AIは国語が苦手、しかし偏差値50。

この記事は国立情報学研究所(NII)の新井紀子教授がリーダーで進めている「東ロボくん」の定期報告会(昨年11月)時のインタビューです。

「東ロボくん」プロジェクトは2011年からスタートして昨年で終了したそうですが、現段階のAIにとって文章の意味を理解することは不可能に近いそうです。特に難しいのが国語と英語だそうです。

ベネッセ模試の国語の偏差値は49.7。

ここで新井先生ははたと考えたそうです。

「偏差値50」

=受験者の半数がロボットより読めていないことになる

私たち大人は、子どもたちが「読める」ことを大前提に生徒に話してしまいます。だから「わからない」と言う子に対して、大人たちは「ちゃんと読め」と言います。

「ちゃんと読めばわかるはず」という前提、それだけの読解力は備わっているという前提を置いて指導していますが、しかしそもそも「読めて」いないのだとしたら?どれだけ「ちゃんと」読んでもわからないことを大人が理解していないのでは?

問題文を読んで理解するということ

AIにとって苦手な文章とはどのようなものか。事例として出てくるのは下記。

「一日10台の自動車を生産する工場が3日間操業した。さて、自動車は何台できたでしょう?」

この問題が、

「10人が3個ずつりんごをもらった。りんごは全部でいくつ必要か」

という問題だったらAIにも解ける可能性はある。

違いは2つ目の問題には掛け算のキーワードになる「ずつ」という言葉が出てくる、ということ。対して1つ目の問題には「10、3」しかキーワードが選べないので、AIは足し算、引き算、掛け算、割り算のどれをすればよいか判断できない。(それでも文脈から掛け算と判断して解けるようにはなっていくのだが)

ところが子どもたちを観察していると、キーワードとパターンで解いている子、読んでいる子が意外にいることに不安が生じてきた。

今もまだ学習塾の受験対策などはこの学習習熟パターンが非常に多いです。

キーワードを探し(検索)、パターンを覚えて「こういう場合はこうだろう」と確率的に解くやり方は、莫大な処理速度をもつAIにいずれ(既に?)追い越されます。仮にそれで正解を得たとしても、そこで培われた力はいずれ(既に?)AIに取って代わられていくのは避けられません。

先の東大模試に関する新井先生の述懐:「東大の記述式試験は、一発勝負や丸暗記とはまさに対極にある、世界でも類をみない丁寧な入試なのである。世界史だけではない。数学や他の科目も同様である。そのような「丁寧な入試」にもかかわらず、なぜ受験生は機械に後れをとったのか。東ロボくんの答案を採点した予備校の先生は、「(東ロボくんの答案は)世界史を理解しようともせず、ただ教科書を丸暗記して部分点を狙ってくる受験生の答案に似ている」と喝破した。つまり、東ロボくんのような答案を書いて入学している受験生が相当数存在するのである。東大を始めとする難関大学にとって不幸なのは、どれほど丁寧な入試をしても、それに応えることができる受験生が減り続けているということだろう。人が機械より優れているのは、意味を理解して問題解決を図る能力があるからだ。意味を理解することを放棄し、単なる暗記や記号処理に走れば、機械に追い越されるのは時間の問題でしかない。」

野村総研が2015年12月にまとめた上記資料では、AIに置き換えられる可能性のある仕事は、従来ホワイトカラーが担ってきた「手順が決まっていて覚えることのできる仕事」。上記リンクには公務員などの行政職も多いですね。比較的近い将来は、政府や地方自治体(財政も逼迫しているところも多いので尚更)も大幅な雇用減になる可能性が高いと言えます。

リーディングスキルテスト(RST)を開発

そこで新井先生は東ロボくんの次のプロジェクトとして、知識基盤社会(何をするにも一定程度の知識インプットが前提となっている社会)およびAI時代に困らない人材を教育するために、公教育(中学校まで)である程度の読解力を保証するにはどうすればよいかを考え、リーディングスキルテストを開発し、予備試験を行った。概要は以下の通り。

  • 出題文は主として検定済みの中学、高校の教科書から採用(国語と英語を除く)。一部、辞書 から採ったものや NII 社会共有知研究センターで独自に作成したものも含む
  • このテストは、問題文の中に答えが書かれているのが特徴。文章をきちんと読むことができれば、そのことに関する知識がなくても解けるようになっている
  • CBT(Computer-Based Testing)にて実施
  • 公立中学校 6 校(受験者数計 340 人)、中高一貫の公立中等教育学校1校(155 人)、昨年 度卒業生の三分の一が国公立大学に合格した公立高校 1 校 (584 人)で実施。

そして衝撃の予備調査結果

テストを受験した公立中学校生340人のうち、

約5割が、教科書の内容を読み取れておらず、

約2割は、基礎的な読解もできていない

ことが明らかになってしまった。

AIが得意な「係り受け関係認識」を聞く問題の解答例。AIの正答率は9割に達しつつある

読解能力が低い理由の解析、改善のための対策は道半ば

では、読解能力が低い理由は何なのだろうか?

テスト結果の統計分析では、「読書が好き」「塾に通っている」「教科書を理解できたと思っている」ことと読解能力の相関はありませんでした。性別も関係ありません。学年が上がっても読解能力は低いままとのこと。少数のサンプリングながら大人でもかなり間違えるので、年代に関係無いかも知れません。

統計的に有意(関連が強いと言える)のは「新聞を家でとっているか」だそうです。

分析を進めた結果、読解力と結びつきが強いのは「語彙の量」と「ワーキングメモリ(同時にいろいろなことができる力)」が関係しているようです。

語彙力が高い子どもをもつお母さんの共通項(佐藤久美子・玉川大学大学院教授)
  1. お子さんが一番身近にいる母親に話しかけた時の応答のタイミングが早い(反応、共感)
  2. お母さまが子どもと話す時、たくさん、それも短く返事をしていくのが理想的(子どもの発話機会の提供)
  3. お子さんに話しかける時はゆっくりと明瞭に発音すること(特に撥音、濁音)

一方、進学校の生徒では読解能力に高い結果が出ました。これは小学校高学年での読解能力の高さが、勉強や合格に影響を与えたのだと考えられます。

これらは、あくまで予備調査段階の結果ですので、今後 、問題の精査などで 変動する可能性があるとのこと。

RSTの今後

中学卒業時点において、すべての生徒が教科書を正確に読める力をつけていることを目指し、教育に関わる企業・団体などと共同で産学連携の「教育のための科学研究所」準備協議会を2016年7月に設置し、以下の活動をすることになっているそうです。

  1. 生徒が教科書の内容を正確に読み取れる力を測る「RST」を企画・実施し、テスト結果のデータに基づいて「なぜ読めないのか」という理由を分析
  2. 読解力の高低に関する要因の特定、診断方法の開発等を通じて欠けた部分を補う教育方法を考案し、読解力向上に向けて活動
  3. 「RST」の実施結果に関するデータベース等の作成 および 開発支援

一般企業の中にも、就活における適性検査にこのテストを採用しようとする動きが表れ始めており急速に普及する可能性があるとのこと。

文章を正確に読み取ること、自分の意見を理路整然と述べることが出来ること、は何時の時代になっても重宝されるスキルだと思います。

AIの技術革新も目覚ましいものがありますので単純な文章解析くらいはすぐ実現するかもしれませんが、人間が経験上持っている知識を前提とする文章はAIは読めませんので、これからは暗記力や知識量ではなく「確かな読解力」がキーポイントになりそうです。

All Posts
×

Almost done…

We just sent you an email. Please click the link in the email to confirm your subscription!

OKSubscriptions powered by Strikingly